訪日外国人が求める“飲食体験”とは?
インバウンド観光において、外国人観光客が日本の飲食店に求めるのは、単なる食事ではなく「異文化体験としての飲食」です。食文化を通じて現地の習慣や歴史を感じ取ることは、旅の記憶を深める重要な要素となっています。特にSNSが旅行体験の共有手段として主流となっている現在「写真映え」「動画映え」する演出やストーリー性は、観光客の選定基準に大きく関わってきます。
料理や飲み物の起源、提供スタイルに文化的な意味合いが込められていることも重視されます。単に「味わう」だけでなく「知る・感じる・共有する」といった体験が求められているのです。また、提供される商品の背景やその土地ならではのエピソードが語れることも、満足度を大きく左右します。
地域別の味覚傾向とベトナムコーヒーの親和性
欧米圏の観光客は、エスプレッソ文化に親しんでいることから、深煎りやコクのある味わいに好反応を示す傾向があります。一方で、東南アジア圏や中華圏の旅行者は、練乳や甘さを活かした濃厚な味わいに親しみがあり、ベトナムコーヒーとの相性が高い層といえます(※出典:JETRO「インバウンド市場調査2023」)。
ただし、味覚は文化だけでなく個人の嗜好によっても左右されるため、断定的な表現は避け「傾向」として扱うことが重要です。さらに、日本人観光客でも甘くコクのあるベトナムコーヒーに興味を持つケースが増えており、多国籍に対応しやすい点も魅力です。なお、ハラールやビーガン対応のベトナムコーヒー商品も増えており、宗教・健康上の制限を持つ旅行者にも適応可能です。
SNS時代における飲食体験の価値
「映える」写真や動画が撮れることは、訪日外国人が店舗を選ぶ際の大きな判断材料になることもあります。味はもちろんのこと、見た目・提供スタイル・文化的背景など、投稿時に話題性を生む要素が求められています。
たとえば、ベトナム式フィルター「カフェフィン」で抽出する過程や、ミルクとの二層構造が美しいガラスグラスでの提供は、視覚的な魅力とストーリー性を兼ね備えており、強力なコンテンツになります。こうした体験は、飲食の枠を超えて「エンタメ」としての価値も備えています。実際、InstagramやTikTokでは「#vietnamcoffee」や「#eggcoffee」といったタグが多く使用されており、視覚体験の需要が高いことが伺えます。
ベトナムコーヒーが観光客に選ばれる理由
味の個性と文化背景
ベトナムコーヒーは、ロブスタ種の力強い苦味と練乳の甘さによって、初めてでも印象に残りやすい「体験型ドリンク」です。これは単なる嗜好品ではなく、現地の生活様式や歴史を反映した文化的商品でもあります。エッグコーヒーやココナッツコーヒーなどの派生メニューも存在し、多様なアレンジが可能です。また、近年はハーブ入り、スパイス風味など、よりユニークな派生商品も登場しており、個性あるカフェメニューとして差別化に貢献しています。
提供の演出力
カフェフィンによる抽出や、グラスの層構造といった視覚的演出は、スタッフによる簡単な説明を加えることで「異文化体験」へと昇華します。フィンを使った抽出は、日本人にも馴染みが薄いため、観光客にとって記憶に残る新鮮な体験になります。抽出時間を活かして会話を促進することもでき、接客面でもプラスに働きます。
加えて、ベトナム国内の人気カフェ(カフェ・ザン、コンカフェなど)の紹介パネルを設置することで、飲み物の背景をさらに強調することも可能です。
ギフトとしての展開力
チュングエン、ビナカフェ、ハイランズコーヒーなど、主要ブランドのドリップバッグやインスタント商品は、土産品としてのパッケージ性にも優れており、物販との親和性が高いのも特徴です。とくに日本語・英語・ベトナム語の3言語表記、アレルゲン・ハラール対応の有無などが、多様な顧客層に対して安心感を与えます。さらに、オリジナルラベルや地域限定パッケージとの組み合わせにより、観光地ごとの販売戦略も可能です。
持ち帰り可能なアイテムにQRコードを付け、現地の淹れ方動画やブランド紹介にリンクさせるといったデジタル施策も効果的です。
導入シーンと事例
ホテル・ゲストハウス
東京・大阪の一部宿泊施設では、ベトナムコーヒーをウェルカムドリンクとして提供しており、多言語メニューや簡単な抽出デモが高い評価を受けています(例:Osaka Stay Lounge/TripAdvisorレビューより)。セルフサービス形式でも演出を加えることで、記憶に残る体験を演出できます。朝食ビュッフェの一角に「体験型ドリンクコーナー」として設置するなど、導入の工夫次第で滞在満足度の向上が図れます。
また、抽出時間を利用したコミュニケーションや、宿泊者参加型イベントと連動させる形でも展開できます。
観光地カフェ
京都・浅草など観光客の多いエリアでは「異文化体験メニュー」としてのベトナムコーヒー導入が増加傾向にあります。フィン付きのセットをそのまま客席に提供する形式や、アレンジメニューの展開がSNSでの拡散を後押しします。イベント時には実演サービスを行うことで、顧客満足度を高め、再訪やクチコミ誘導につなげることが可能です。
一部店舗では、SNS投稿キャンペーンやスタンプカードとの連動も導入されており、体験の「シェア」促進に成功しています。
お土産・物販店
店舗の一角にコーヒーコーナーを設け、ドリップバッグやフィンセットを並べることで、訪日客がその場で「思い出商品」として購入できる体験を演出可能です。JAPANブランドのギフトパッケージに応用することも収益向上の施策となります。加えて、試飲スペースの併設や、現地での提供写真と連動したパネル掲示など、購入の動機づけを高める工夫も有効です。
地元の素材(例:抹茶や柚子)とコラボしたオリジナルフレーバーを限定販売することで、地域密着型の展開も図れます。
【地域別】日本でベトナムコーヒーが飲めるカフェまとめ|東京・大阪ほか
多様化する観光客への配慮
宗教・健康上の理由から、カフェインや乳製品を避ける観光客も増えています。ベジタリアン・ビーガン・ハラール対応の記載、ノンカフェイン版や無糖のベトナムコーヒーの取り扱いは、今後さらに重要になるでしょう。さらに、アレルギー表示の明確化や使用原料の産地表示、環境配慮型パッケージへの対応も、海外顧客に対して信頼を築くうえで有効です。
また、フェアトレードや有機認証(オーガニック)など、社会的背景への配慮が評価される傾向も強まっており、訴求ポイントとして活用が可能です。
ベトナムコーヒー導入の意義
訪日外国人が飲食店に求めるのは、味だけではなく「文化的なストーリー」と「共有可能な体験」です。ベトナムコーヒーはその両方を備えた飲料であり、ホテルや飲食店、物販店のブランディング・収益向上に貢献する可能性を持ちます。
特に多様な提供形態と物販展開のしやすさから、インバウンド戦略において導入価値の高いコンテンツです。今後は他の異文化飲料(タイティー、チャイ、タピオカなど)と組み合わせたクロスカルチャー展開や、地域資源とのコラボによる「日本×ベトナム」商品開発なども視野に入れた、戦略的な活用が期待されます。観光庁の地域誘客促進事業などと連携し、広域でのプロモーション展開も検討に値します。
また、訪日観光客の再訪・リピート施策として「旅の思い出を家庭でも再現できる」パッケージ展開や、オンラインショップとの連動施策など、アフター観光戦略としての可能性も大きく広がっています。